始まり

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容姿端麗、眉目秀麗、文武両道、その他諸々の賛辞の言葉を並べたところで、決して彼女の全てを語り尽くせない。 その全てに当て嵌まっている……、いや、全てが当て嵌まるのだが、彼女がそれら個々に当て嵌まる事はない。 なぜなら、彼女は完璧過ぎるから。 スラリと伸びる手足に、贅肉の無いウエスト、それに反して、女性らしい膨らみが眩しい体つき。宝石の様にキラキラと輝く深藍の瞳に、乾燥知らずの柔らかな唇、凛と真っ直ぐに芯の入った立ち姿と、それに負けないくらい真っ直ぐに伸びた、艶のある黒く長い髪。  美し過ぎて、不意にそのお姿を拝見した者は、余りの神々しさに眼が潰れたとかなんとか。そのような噂がまことしやかに噂され、告白した男の数は埼玉の人口より多く、その全てをふったとかふらないとか。  男を全く鼻に掛けないその姿から、男子より女子のファンの方が多いらしい。  そんな噂も、彼女――桜坂香澄を一目見れば、だれもが疑うことなく信じてしまうほど、彼女は美人なのだ。  俺も、そんな噂を信じる、彼女の遠巻きの一人だった。  ――ほんの二日前迄は……。
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