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その後も、先輩は時折頭が痛むようで蟀谷を押さえながら顔を歪めていた。
どうやらその痛みは、記憶が戻ろうとしている時に表れる症状のようだ。
そのせいで先輩はすっかり疲れてしまったのか、その日は家に帰るとすぐベッドに横になっていた。
__月曜日。
どうやら、まだ調子が戻らない先輩は大事を取ってお留守番。
私は一週間ぶりに一人で学校へと向かった。
たった一週間のことなのに、隣に先輩がいないことに違和感を覚える。それにいつもの通学路がどこか色褪せて見えるなんて私は重症だ。
……これが、私の日常だったはずなのに。
「加奈! 早く彼氏を紹介しなさいよ!」
「そうだぞ!」
教室に入るなり詰めよってくる美樹と涼太に苦笑する。
「今度ね? ちょっと今は相手が忙しいから」
「またそれかよ?」
「えー」
と、不服そうな二人を無視して自分の席に腰を下ろす。
だけどやっぱり、先輩のいない教室は何だかつまらない。
それから昼も、一週間ぶりに美樹と涼太と三人で食べた。
先輩がいる時は、彼氏と電話をしながら昼を食べるという理由で教室を抜け出していた。
だから昼休みも、話題は専ら彼氏の話し。
正直、いい加減疲れてしまった私は御手洗いへと逃げ込んだのだった。
「……はぁ」
憩いの場で、ふと昨日のことを思い出す。
先輩の記憶は、あの映画に反応を示した。
しかし、一週間学校に通って沙耶先輩や翔先輩を眺めていても何一つ記憶は戻らなかったのに。
……それは、何故だろうか。
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