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私はトイレから出ると一度教室に戻り“ある物”を手にしてから、三年生のフロアへと向かった。
……こういうのは、勢いが大事だ。
階段を駆け上がると進路指導室の窓から中を確認し、それからトイレの入口に身を隠す。
本当は呼び出す方が手っ取り早いけれど、恐らく翔先輩から私の話を聞かされているだろう。
拓斗先輩の死を好奇心で調べているなんて思われるのは不服だがしょうがない。
大人しくトイレの入り口で息を潜めていると、進路指導室から出て来る沙耶先輩の姿が見えた。
……よし。
中にいたのは確認済みだ。あとは、このままこちらに向かって歩いて来てくれれば……。
……今だ!
私は手に持っていた筆箱のチャックを開けると、転ぶふりをして沙耶先輩の足元にめがけて転がした。
「わ!」
と、声を出すとギョッとした顔をした沙耶先輩がすぐに声を掛けてくれる。
「だ、大丈夫?」
……よし!
「す、すいません」
私が足元に転がるペンを集めると、沙耶先輩も一緒に手伝ってくれる。
……どうやら、偶然を装って接近する作成は成功したようだ。
チラッと盗み見すると、沙耶先輩は疑いもせずに長い髪を人差し指で掬い片耳に掛けながら、転がるペンを集めている。
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