キミと映画

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「本当に大丈夫? 怪我はしてない?」  と、優しく声を掛けられると申し訳ない気持ちになるけれど。沙耶先輩が私の顔を見た瞬間、計画通りわざとらしく驚いた表情を造る。  すると、相手はこちらの思惑通り首を傾げながらペンを差し出してくれた。 「沙耶先輩ですよね?」 「え? ……そうだけど」 「まさか、拾っていただいたのが沙耶先輩だったなんて嬉し過ぎますぅ」  と、媚びるように語尾を上げると沙耶先輩はまた首を傾げる。 「実は私、拓斗先輩と沙耶先輩のカップルに憧れてたんです」  すると“拓斗先輩”という言葉に反応したように、一瞬切れ長の瞳を見開くと悲しげに俯いた。  その表情に、私の胸もキリリと痛む。  ……だけど、これしか方法はないんだ。 「すみません。あんなことがあったのに思い出させるようなことを言って」 「ううん。気にしないで」  沙耶先輩が細い首を横に振ると、艶やかな髪がハラハラと散る。  私はその光景を眺めながら、そっと口を開いた。 「……あの。一つだけ聞いてもいいですか?」 「ええ。何?」 「拓斗先輩は“大切なキミ達に出来ること”と、いう映画が好きだったんですか?」  その瞬間、沙耶先輩の綺麗な瞳がユラユラと揺れる。  ……やっぱり何か大切な思い出があったのだろう。  私は思い出させてしまった事を素直に謝ろうとした。  だけどその前に、沙耶先輩は私を真っ直ぐに見つめながらゆっくりと口を開いた。
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