キミと映画

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「……誰から聞いたの?」 「え? ……えっと」  ……翔先輩。と、答えても良いのだろうか。  いや。しかし、沙耶先輩は私の顔を見ても何も反応を示さなかった。と、なると翔先輩から話しは聞いていても顔までは知らないことになる。  ならばこのまま、翔先輩の名前は出さずにいた方が身の為だ。 「ファンの子が言っていたんです。それで、その子もその映画を観に行ったら、たまたま拓斗先輩を見かけたって」 「……それは、いつ?」  そう尋ねた沙耶先輩の瞳からは、どこか怒りに似た色が見える。 「えっと……」  ……いつと言われても。  ……ん?あれ? 「沙耶先輩も一緒じゃなかったんですか?」  すると、明らかに顔が強張っていく。 「ええ。一緒だったけれど、いつのことだったかしらと思って」  __嘘だ。  その表情を見ればわかる。  ……でもどうして?一緒じゃないのなら、そう言えばいいのに。 「ごめんなさい。いつかは、聞いてないです」 「そうなの」  恐らく、これ以上話しても本当のことは聞けないだろう。  ……ならば。と、私は最後に言葉をかけてこの場を去ろうとした。 「拓斗先輩は、沙耶先輩や翔先輩の幸せを祈ってますよ」  今は記憶を無くしているけど、本当は沙耶先輩のことを愛しているから。  そんな純粋な想いを口にしたのに、何故か目の前にいる沙耶先輩からは警戒の色が滲む。
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