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「まず、不思議なのが先輩は翔先輩にその映画を観たいって言ってたわけだろ? なのにさ、普通観たならその事を話さねえか?」
「うん。話すと思う」
「だけど二人は知らない。と、なると知らない理由は二つ。先輩が話せなかったか、あえて黙っていたかだ」
「そうだよね」
「話せなかったのだとしたら、先輩が亡くなった当日に観た場合。それだと、二人に話したくても話せなかった」
「だけど、待って。先輩は亡くなる直前に沙耶先輩と会ってる」
すると涼太は、パチンと指を鳴らす。
「そうだ。そうなると翔先輩には話せなかった可能性があるが、沙耶先輩には……」
「あえて、話さなかった」
「まあ、もしくは話す雰囲気ではなかったか」
「でも、それはないんじゃない? 最後に会った拓斗先輩はいつもと変わらないって表現をしていたわけだから。険悪なムードではなかったはず」
「と、なるとあえて話さなかった線が濃厚かもな」
と、頷きながら呟く。
〈へー。見かけによらず頭がキレるね〉
なんて、先輩は呑気に笑っている。
「……本当は沙耶先輩から話を聞くのが早いんだけど、もう無理だし。先輩はどう? 何か思い当たることはない?」
〈……ごめん〉
と、今度は申し訳なさそうに肩を落とす先輩の背中を、私はポンポンと軽く叩き慰める。
「先輩は何だって?」
「まだ思い出せないみたい」
「……そっか。まあ、しょうがないよな。それより腹減った」
「は?」
「おやつにしようぜ」
人の家でおやつを催促するなんて、何とも図々しいけれど。
「……しょうがないな」
確かに、もうそろそろおやつの時間だし。確か戸棚には先輩の大好物のバームクーヘンもあったはずだ。
「ちょっと、待ってて」
と、立ち上がると私は二人を置いて部屋を出た。
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