1082人が本棚に入れています
本棚に追加
その瞬間、玄関のベルが鳴る。
「早く用意しなさい! 涼太君が来たわよ!」
……涼太?
私はトボトボと廊下を歩くと、玄関の扉を開けた。
「はい」
「お前。何で、まだパジャマなんだよ?」
「え? ……ああ」
「どうした? 顔色が悪いけど」
「先輩が」
「先輩?」
と、涼太が首を傾げる。
「……先輩が、朝起きたらいなくて」
__いない。
その言葉を口にした瞬間、無意識に身体が震える。
……もし、涼太まで先輩のことを知らないと言ったらどうしよう。
全ては夢だったということだろうか。
しかし、涼太は一瞬目を見開くとすぐに笑った。
「良かったな。きっと成仏したんだろ」
……やっぱり、先輩と過ごした日々は夢ではなかった。
……先輩はちゃんと昨日まで私の隣にいたんだ。
「……だけど、どうしていきなり?」
「もうあんまり気にするな? とりあえず良かったじゃないか」
……良かった?
「……何で? ……全然良くないじゃない。先輩は、まだ記憶も戻ってなかったのに……。成仏なんて出来るはずがない」
「でも、もういないんだろ? なら、成仏以外に何があるだよ?」
「……旅行とか」
「バカ。幽霊は旅行なんてしない。それより早く用意をしろ」
「……嫌だ。こんな状況で、学校になんて行けるわけがないでしょ?」
すると涼太は大きな溜め息を吐き出す。
「加奈?」
「だって、先輩がいないんだよ?」
「だからそれは」
「……探さないと。先輩のこと探さないと!」
「加奈っ!!」
突然、声を張り上げた涼太にビクッと身体が萎縮する。
最初のコメントを投稿しよう!