キミの彼氏

5/21
前へ
/244ページ
次へ
 自分の教室に入るとそれまで固まって話していた生徒たちが、顔をひきつらせながらバラバラと散っていく。  いつもなら「おはよう」と、どこからともなく聞こえる声も今日はない。  きっと、先輩の浮気相手だとかそんなくだらない噂を信じているのだろう。  ……だけどそんなのはもうどうでもいい。相手にもしたくない。  __先輩はいなくなってしまった。  その現実を自分の中で処理することで、精一杯だから。 「……加奈。おはよう」  と、美樹が心配そうな顔をして駆け寄って来る。 「おはよう」  しかしどうやら涼太が昨日の事や先輩の事を説明してくれたのか、美樹はそれ以上は何も聞いてはこなかった。  だから私は自分の席にゆっくりと腰を下ろすと、四角い窓から雲一つない空を見上げる。  ……先輩は、あの空のどこかにいるのだろうか。 「三橋さんいる?」  呆然としていると、どこからか自分の名前を呼ばれた気がして辺りを見渡す。  するとクラスメイト達が、一斉に教室の後ろの扉を見ていた。
/244ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1082人が本棚に入れています
本棚に追加