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まだ蝉が力強く最後の声を上げる九月の初め。キャメルのカーディガンを羽織り、乱雑に袖をまくった生徒が列の後ろに付く。ポケットから覗くストラップをおもむろにひっぱると、携帯電話を取り出しカツカツと画面に文字を浮かべた。斜め後ろに立った50代くらいの女性に声をかけられ、渋々携帯を閉じる。
「弓、今来たの?」
『んー。スタバ寄ってた。』
「なにそれやる気あんの?初日なんですけど!」
『ないかもー。』
けたけたと笑う少女に話し掛けられ、小声で答える。
早川 弓江(はやかわ ゆみえ)。
胸元まで伸ばした髪は明るく、黄色がかった毛先はかなり痛んでいた。眠気のせいか、バサバサと伸びるまつげのせいか、重たいまぶたと厚い唇が印象的だ。
高校に入って初めての夏休みが終わり、気の抜けたまま二学期の始業式を迎えていた。
「.......でした。2学期も気を引き締めて......」
お決まりの挨拶を聞きながら、久しぶりに会う友達を列の後ろから眺める。いつもと同じ新学期が始まった。
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