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こんな時、どんな言葉をかけるべきなのか僕には分からなかった。
あいにく、今まで情報の海で手に入れて来た知識は何の役にもたたなくて、ただ無い頭を精一杯振り絞って思いついた事を言ってみるしかなかった。
「なら、嘘をつく練習をしよう」
言った瞬間世界が止まった気がした――
馬鹿らしいのは分かってた。
完全に空気を読み間違えたのも分かってた。
でも僕は、少女を助けたかった。一週間も一緒にいたんだ、理由はそれだけで良い。
案の定、少女はポカンとした顔をして、ただ僕を見つめていた。
すると突然、何かが堰を切らしたかのように少女は笑い始めたのだ。
今度は僕がポカンとするばんだった。笑っている少女を黙って見てるしかない。さっきまで目に溜まっていた涙は、笑った衝撃で零れ落ちている。
たっぷり5分はそうしていただろうか? 笑いが収まった少女は、嬉そうに「ありがとう」と言って、僕はその表情にもう何度目か分からないときめきを感じるのだ。
仕方ないだろ? 僕だって一応健全な高校生なんだから。
少女は僕の心理状態を知ってか知らずか、僕の心に追加ダメージを与えるように笑顔で口を開く。
「じゃあまず自己紹介しよ。私まだ少年の名前知らないんだけど」
「え? 一週間も一緒にいたのに? 」
「だって一言も話さなかったじゃん。私初めてよ? 男の人が一週間も話しかけて来なかったの。少年は女の子に興味無いわけ? 」
「そんなわけ無いでしょ!! ただキミに興味が無いだけで……」
「それも嘘? 」
「うっ……」
完全に図星だった。
「ぷっ」
そんな僕を見て、途端に少女は再び声を上げて笑いだす。それを見ていたらなんだか僕も馬鹿らしくなって、気づいたら少女と一緒に笑っていた。
僕達はそれから完全に日が暮れるまでくだらない事を話し続けた。好きな音楽、好きな食べ物、趣味、学校の事……くだらないけど楽しかった。
僕の……いや、僕らの宝物。
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