レニングラードの食人

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しかしやがて食糧そのものが無くなり、配給証は無用の長物。 やがて、墓掘り人夫がおかしな事に気が付いた。 体の一部分が欠けている死体が頻繁に見つかると言うのだ。 特に腿、尻、腕、肩の肉が無い。 墓地の前ではバラバラ死体すら発見されている。 何者かが死体を切り取り、肉を喰らっているのは明らかだった。 やがて、生きた人間までもが殺されて喰われた。 凍った死体は解体の前に解凍する必要がある。 生きた人を殺して、即座に解体すれば手間がかからない。 特に女と兵士が襲われた。 女は脂肪が多く、柔らかいから。兵士は、一般人よりも栄養状態が多いから。 人肉市場は俗に「干し草市場」と呼ばれていた。 ここでは紙幣は価値はない。通貨は金貨と銀貨、それよりもパンとウオッカ。 売り主は盗人、密売人、前科者。 人々は一番大切な物をパンや怪しげなソーセージ、パテと交換した。 街には牛も馬も羊も居らず、犬や猫も居ない。 そのパテやソーセージは犬や猫の肉だと市民は思った。いや、思うようにした。 1942年1月19日、物不足に悩むディミトリとタマラは、大切に保存しておいたパン600グラムを携えて「干し草市場」に向かった。 毛皮のブーツを買うためである。 そこで二人は大男に出会った。身なりもよく、栄養状態も良いようだ。 彼は女物のブーツを持っていたので、商談を持ちかける。 値切った結果商談は成立。 ブーツがもう一足、数100メートル離れた男の家にあるという。 ディミトリは行くことにしたが、タマラはそこで待っていた。 男に付いていったディミトリは妙な胸騒ぎがした。 食人鬼の近づき方の噂を聞いていたからだ。
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