ポジティヴー痛みを持つものたちー

弘幸

あの事故から１ヶ月が経った。

家に張り付いているマスコミの数も減ってきたし、麻衣の様子も日に日に落ち着いてきた。

清田美雨を、その痛ましい死を、俺は生涯忘れることは出来ないだろう。

麻衣の父親から連絡があった。KANDAの副社長でもあるその人は、電話越しに娘を返すように、はじめの頃は脅すように、今では懇願するように言う。
まるで誘拐犯にでもされた気分だ。麻衣とは互いに求め合って一緒にいるというのに―。どうやら理解はしてくれないらしい。理解する気もないのかもしれない。

世間で俺は、美人な妻がいながら浮気を繰り返した男ということになっている。

まるで悪者だ。

いやー、実際、その通りなのかもしれない。案外世間はわかっている。自分自身が自分自身を一番判らないものなのかもしれない。