第壱章

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私が急いで礼を述べますと、ハルキはベンチの隣を差して「お座りよ。」と微笑みますので、躊躇いもありましたが、その言葉に従いました。 明瞭とした意識の中で見るハルキは息を呑むほどに美しく、近寄り難かったのです。 しかし、座ったは良いものの、何かを話す訳でもなく、ハルキはすらりとした硝子細工のような指で本の頁を捲り、 時々ふと遠い眼をして何かに思いを馳せているように見えました。 私はどうにも手持ち無沙汰で、居住まいを正そうにも、一度座った場所から僅かでも動くと何かの均衡が崩れてしまうような気がして、只管に緊張しているうちに、時間の感覚などあっと言う間に失せてしまいました。 緊張を解き放ったのは、ハルキの独り言ちるような声でした。  
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