♯2

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「前へ習えっ!」 担任の先生が発する、あの掛け声が、俺は大嫌いだった。 二番目以降の者はいい。問題なのは、一番先頭の者だ。何故、腰に両手を当てて、胸を張らねばならぬのだろうか。 二番目以降の者のあのポーズ…両腕を前に突き出すあのポーズが、当時の俺の目にはめちゃくちゃ格好良く映っていた。 「ほらっ!ちゃんと、ビシッとしなさい!」 そう言われてもさ、先生。この格好、嫌なんです。俺も前へ習いたいです。 一種の差別のようなものだよなー、背が低い者に対する当て付けだよなー、と思いながら、俺は我慢して両手を腰に当てる、一番先頭の者のみが行う事ができるあのポーズをし続けた。 そんな迫害を受けてきた俺にも、好きな人ができた。小学六年の夏の少し手前くらいの頃だ。 やっぱり相変わらず俺はあのポーズを続けていて、転校してきた彼女は、女子の列の前から四番目に並んでいた。 「あの子、めちゃくちゃ可愛くない?」 「あぁ、有紗ちゃん?確かに可愛いよなー」 転校初日から、彼女の噂は瞬く間に学校中に広まり、すぐにクラスのマドンナになってしまった。運良く(悪く?)彼女の隣の席になってしまった俺は、その日からクラス中、いや、学校中の男子を敵に回す事になってしまったのだった。そして背の順で並べば一番前。 学校が嫌いになった。
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