♯2

3/5
前へ
/10ページ
次へ
それでもやっぱりあの子の顔が見たくて、学校には通った。席だけじゃない、背の順だって前から四番目になって隣になってやる!と、強欲な俺は、家に帰ってからも、ぶら下がりや逆立ち、牛乳一気飲み、ご飯のおかずに魚、むしろ魚をメインにおかずに小魚、デザートにししゃも、などと、これをやれば背が伸びる!と世間で言われているものは全て実践した。それでも背は伸びず、有紗ちゃんは何故か前から五番目に昇格していた。 きっともともと五番目にいた子の身長が縮んだのだ。きっとそうに違いない。その日の夜は枕をびっしょりと濡らした。 そうやって悶々と過ごしている内に夏が着て、夏休みがようやくやってきて、夏祭りがある事を聞いて、有紗ちゃんを誘おうとしたけど言えなかった。 下駄を履いても勝てないと思ったからだ。 ちっぽけすぎる俺のプライドが、彼女と並んで夜道を歩くなどというロマンチックな事を許さなかったのだ。だって、さすがに竹馬じゃねえ……。そりゃ勝てるけどさ。 それからずっと背は伸びず、陽は短くなっていき、冬になった。有紗ちゃんは益々可愛さを増していき、いつの間にか前から七番目に並んでいた。 女子の身長とはこうも縮むものなのか、と思う事もやめた。単純に、有紗ちゃんの身長が伸びていただけだ。なんだか泣けてくる。 卒業式が近付いてきた。 学区などの関係で、有紗ちゃんと俺達は、どうやら同じ中学校には行けない事がわかった。そういう情報に詳しい、山田という友達が教えてくれたのだ。 余談だが、山田は当時、同じクラスだった柔道部で小学生部門の賞という賞を総なめにした女子と結婚している。 皆の前では、「へっ、別に有紗ちゃんがあっちの中学校に行こうが、俺には関係ねーやい」なんて強がってはいたが、内心は「うそーん!!有紗ちゃんあっちの中学校行っちゃうの!?うそーん!」 なんて思っていた。悶々と過ごしてきた日々だったが、山田からその情報を聞いた時からは、悶々々々々々々々々々とした日々になってしまった気がする。それくらい、毎日悶々としていた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加