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だから決めた。
もう悶々とするのが嫌になったからだ。俺は小さいけど、男だ。卒業する前に、告白してやろうと思った。
もう誰かと付き合ってるかもよ?無駄だって、うけけけけ。という山田の言葉も無視した。無駄だっていいんだ。とにかく、積もり積もったこの思いを吐き出せれば、それでいい。
卒業式前日。
震える手を抑えながら、小さな紙切れに、“体育館裏に来て”と書いた。しかしその紙切れはすぐに丸めて捨てた。こんな小さな紙切れに運命を託すだなんて。だから自分は小さいのだ。
無駄に大きい紙を用意して、そこにぶっといマジックで、“体育館に来て”と書いた。
今でも、あの時の失敗だけは悔やまれる。
無駄に大きな紙を結局小さく折り畳み、彼女にそっと手渡した。やっぱり手は震えたが、視線は逸らさずこう言った。
「体育館裏に来て」
彼女もさぞビックリしただろう。やたらと小さく折り畳んであるやたらと大きい紙にも、“体育館に来て”と、同じ事が書いてあるのだから。
陽が傾き初め、西の空が赤くなりだしても、彼女は体育館裏には現れなかった。あと五分だけ、あと十分だけ、あのカラスがあの木を飛び立ったら、あの太陽が完全に沈んでしまったら帰ろう。そんなふうに繰り返していたら、いつの間にか時計の針は七時をさしていた。
やっぱり駄目だったか。俺のような足の短い男じゃ、駄目だったのか。涙が溢れそうになったけど、上を向いてなんとか堪えた。代わりに鼻水が垂れてきたけど、手で拭った。ハンカチなんて持ってない。
鉛のように重くなってしまった両足を上げて、一歩、また一歩と、帰る方向に歩を進めた。体育館の水銀灯がぼんやり輝いている。霞んでいる体育館の舞台の向こう。彼女はいた。
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