♯2

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「えっ?…えっ?」 思わず二度見してしまった。間違いなく、有紗ちゃんがそこにいた。意味がわからない。退屈そうに、彼女は座っている。 「あ、有紗ちゃん」 思わず駆け出していた。有紗ちゃんも俺の存在に気付いたのか、座ったままで顔を膨らませていた。 「ちょっと、人を呼び出しておいて、随分遅かったじゃない」 「いや、まさかここにいるなんて」 「だって、“体育館に来て”って、書いてあるじゃない」 やたらと大きいその問題の紙を、彼女は拡げてみせた。そこには汚い文字で、“体育館に来て”と書いてある。一体どうやったらこんな汚い文字が書けるのだろうか。まったく、この字を書いた奴の顔を見てみたい!と思って真っ先に浮かんだ顔が自分の顔だった。 「体育館裏に来てって…」 「でも紙には体育館に来てって書いてあるわ」 自分の馬鹿さを呪った。そういえば前に、漢字テストで“祝う”という漢字を“呪う”と書いた事があったっけ。あの時の気持ちを今、思い出した。 「それで、どうしたの?」 ぱっと顔を上げ、有紗ちゃんは俺の顔を見てきた。はっとするほどその顔は綺麗で、同じ女性でもうちの母親とはまるで別の生き物だと思った。 「あ、あのっ」 声が裏返ったような気がしたけど、気にしなかった。 「初めて見た時から、す、す、素敵だなぁと」 「え?」 「好きでした。今でも好きです。付き合ってください」 何を言っているんだ、自分は。まずそう思った。あっ、なるほど。これが国会議員がよくやらかしてしまう、“失言”というやつなんだな!なるほどなるほど。これで俺も国会議員!よっ、大統領! などと、意味のわからない言葉達が一斉に脳内を駆け巡っていた。 「いいよ」 鼻血を不意に垂らしてもおかしくはない、そんな状況だった。きっと目が阿波おどりをしていたと思う。 「いや、あはは。なんちゃって。だってさ、俺、背ちっちゃいし。背伸びしたって有紗ちゃんに勝てないし」 「そんなの、関係ないじゃない。知ってるよ。たくさん牛乳飲んでたり、昼休みとか休み時間中、ずっと鉄棒にぶら下がってたり」 「知ってたの?」 「全部知ってたよ。きっと伸びるよ、背」 その後の事はあんまり覚えてないんだけど、きっと俺は背伸びしてたと思う。有紗ちゃんのほっぺたに、俺の唇が届くように。有紗ちゃんはきっと、ちょっとかがんでくれただろうな。
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