いろはにほへと

２人の花魁

　
(知ってて言ってんだろうが……)

腹立たしくて仕方ない。
先ほどの山口と言う客は、緋暮の馴染み客であるため、騒ぎの原因が揚羽と知ってて聞いてくる。
拳を握り締めて、廊下を歩く揚羽。

先ほどの遊女を緋暮と言って、松川屋の人気花魁だ。
自分と同じ日に松川屋に売られて来て、歳も今年20と同じ。
可愛らしい容姿に、初々しさを演出する彼女。
彼女の喜怒哀楽の迫真の演技にかかれば、落ちない男はいないだろう。
それが、彼女の手練手管<ﾃﾚﾝﾃｸﾀﾞ>の一つだった。
指名されれば彼女はどんな客でも取るが、しかし、一つ問題がある。
彼女は、次に会う時までにと、可愛らしく客に高額の商品を持ってくるようにと、おねだりして来る。
彼女の指定した高額の品を持って来客すれば、彼女は座敷でも床へでも行くが、持って来ないと、二度と会わない。
緋暮の客は、それを知っているために、彼女の為にと言って、高額の品と高額の花代を払ってまで、彼女に会いに来るのだ。

(馬鹿馬鹿しい……あんな女の何処がいいのやら)

そう心の中で呟いて、自室へと揚羽は戻る。