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「ほら、寝ぼけてないで、離れる離れる」
「ふ……はぁい……」
夏を引き剥がす事に成功し、洗面台の前にまで誘導した。
そして、夏が顔を洗い始めたのを確認し、私は洗面所から出ていった。
「……ひゃん……!つめたい……ぅゅ……」
そろそろお腹が空いてきたので、今度こそ親がいるだろう、とキッチンの扉を開いた。
すると案の定、フライパンを軽く動かし、何かを焼いている後ろ姿が目に入った。
ピンクの三角巾とチェックのエプロンをして、鼻歌混じりに料理をしているようだった。
「おはよー」
そんな後ろ姿に声をかけてみた。
すると此方を見返し、ニッコリと笑った。
「おはよ。もうすぐ出来るから、武司君や彼方ちゃんに夏ちゃんも呼んできてもらえるかな?」
そう言いながらもフライパンを止めず料理を続けている様子に、流石、と感嘆の息をもらした。
「了解。直ぐに呼んでくるよ、父さん」
そう、今料理していたのは、私達の父親だ。
名前は中宮弥彦。
温厚で、柔らかい喋り方をする優男だ。
私が産まれる前は、どこかの研究所で働いていたらしいんだが……問題を起こして辞めたらしい。
その理由が、母さんを上司が侮辱しただとかなんとか。
その上司は今も精神病院にいるとか……本当かどうかはわからないが。
まぁとにかく今は、世界中を飛び回る母さんの代わりに、専業主夫をやってくれている。
一時期反発した事もあるけど、今は感謝しかないな。
「よし、ついでに着替えてくるか」
キッチンを後にした私は、そう呟き、一度部屋に戻る事にしたのだった。
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