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その日は、毎日見る温度計の最低記録を樹立していた。
「マイナス五度って寒すぎだろ…。雪振らねぇ癖に無駄に冷えやがって~」
冬休み前の最後の登校日、12月22日。午前7時半。
寒さのお陰ですっかり覚めた目を擦って、黒の学ランを重い足取りで動かす。
グレーのマフラーが至って気ダルそうに、俺と深くマッチして見えているのは今の状況をよく表している証拠だ。
何しろ学校が遠すぎるんだ。
ある小さな山の中腹にあるという、何でこんな場所に立てたんだ? と思えるぐらいに立地条件の最悪な――私立鏡石学園しりつかがみいしがくえん。
そんな馬鹿みたいな場所に一年と八ヶ月、この俺――桜庭恭介は勉学を学びに行っているのだ。
あー、褒めてもらいてぇ。
「おはでーす恭さん。今日は一段とサブいな~」
そんな億劫な足取りで歩いている俺の後ろから、少し背の高い男子――要純一の声色が響いてきた。そしてそのままこちらに走り寄ってくる。
こいつとは中学の時からずっと同じクラスだ。鏡石の才色兼備の名を欲しいがままにしてるこの男は、女子からの支持がかなりすごい。
……だが、こいつは一般人と比べてかなり変だ。変態、ではなくて、ただ純粋に変。
他の奴は気付いてないっぽいが、どうしてと思われるぐらいにどこか抜けている。
しかしそんな短所というか、無駄な要素が俺の中にある好感の的を得ているようだ。
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