悪夢×二人

8/15
前へ
/99ページ
次へ
  「……っていうか、あたしバクのことなんっも知らないんだけど。結局名前なんていうの?」 「……名前なんか忘れたよ。どうせ俺達しかいないんだから、お互いが判別できる名前さえ付いてればどうだって」 尋ねると、バクの顔に浮かんでいた僅かな笑みはすうっと消えて、いつもの仏頂面に戻ってしまう。 ――バクは、自分のことを語りたがらない。 さっきの血液型みたいに、尋ねればそれなりに教えてくれるときもある。 訳あって一留した高校3年生の19歳であること。 春生まれであること。 暑いところが苦手なこと。 教えるつもりがないだけかもしれないけど、趣味は特にないらしい。 それから、好きな食べ物は特になしで、蟹は嫌いなんだとか。 夢の核が蟹の形をしていたとき、嫌そうな顔をしてあたしに譲ってくれたことがある。 そういった大雑把なプロフィールだけは、ぽつぽつと語られる。 ただ、名前だけは何度尋ねても教えてくれなかった。 忘れたなんて、そんなことあるわけないのに。 「あたしは名前ちゃんと教えたのにぃ」 「あんまり呼ぶ事ないから、知る意味も薄かったけどね。知らないことを教えるっていうのは不可能だよ」 あくまで忘れたのだと言い張るつもりらしい。  
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加