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何て古典的でベタな失敗だ、こんな時に石に躓くなんて……、いや大丈夫すぐ立ち上がって逃げればまだ間に合う。
――念の為後ろを振り返ると二つの目がこっちを見ていた。
否、睨まれていた。
――ヤバい追いつかれた。
「ひっ……」
その容貌をまじまじと見てしまって思わず情けない声が出た。
……身の丈三メートルは優にあるだろうか。足は六本、体中毛むくじゃらで口からは涎を垂らし、餌だとでも思っているのだろうか、その二つの全くつぶらではない可愛いさの欠片も無いギョロっとした瞳の主はしっかりと俺を捉えている。
――蜘蛛、としか形容の出来ない巨大な化け物がそこにいた。
足が震える、足だけじゃなく体中の震えが止まらない。
人間というのはは本当に恐い時体中がガチガチになって動かないというのはどうやら本当だったらしい。
逃げろ、逃げろっ、と自分に叱責するが俺の立派な二つの足は全く言う事を聞かない。
お前ら二足をそんな風に育てた覚えはないっ!と頭の中で我が両足を叱ってみたけど無反応だった。
反抗期でも迎えたのだろうか。
しょうがないのでやあこんにちはとまずは精一杯の笑顔で蜘蛛さんに話しかけてみた、というのはもちろんジョークで実際には腰が抜けて立ちあがる事すら出来ず、未だ目の前の悲現実的な光景が実は白昼夢ではないかと疑ったりしていた。
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