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満開の桜が咲きほこる。
俺はふと足を止め、桜を見上げた。
こう書くと美しい風景だろうが、
俺の内面はその景色とは程遠い。
なにしろさっき恋人と別れたばかりだ。
さすがの俺でも平常心てワケにはいられないだろう?
俺ももういい大人だ。
いまさらガキみたいに泣き叫んだりはしやしない。
しかしそれでも心に隙間が出来る事はある
「はあ」
ため息ばかり出る。
有り体に言えば、
俺は落ち込んでいたんだろう。
桜すら俺を嘲笑ってやがる。
風が桜の花びらを巻き上げ俺に吹き付ける
その時俺は異常な気配を感じた。
何だ?
俺は目を疑った。
失恋のショックでおかしくなったのか?
いやそうじゃない
確かにいる。
そいつは桜の枝に腰掛け笑っていた。
さっきから聞こえていた嘲笑はこいつか?
まあ桜が笑うワケないわな。
俺は妙なとこで安堵し、
そいつを観察した。
岩みたいな体つきに、額に角。
大きく開いた口からは鋭い牙がのぞいている。
鬼やな。
俺は即断した。
まあ俺が聞いた事ある鬼よりは随分と
なりは小さいが。
俺も実物を見るのは初めてだし、
実情はこんなもんかもしれん。
「久しぶりだな。」
頭の中に声が響いた。
久しぶりだって?
俺はおめえなんか知らねえよ。
だいたい俺に何の用だ?
「そうまくし立てんな。
力が欲しくないか?」
興味はある。
が俺もそうアホじゃない。
ホイホイワケわからん話には乗れん。
「何大した事じゃない。」
「俺と契約すればお前は俺の力が使える
俺は宿主がいないと力を使えん。」
「それだけだ。」
たしかに興味はある。
しかし
「怖気づいたか?お前には俺を使いこなす自信がないか?」
こいつ。
鬼のくせにロジック知ってやがる。
しかも俺の性格までつかんでやがる。
いいだろう。
俺はすみやかに腹を決めた。
やはり少しヤケになっていたのかもしれない。
しかしそれも面白そうだ。
また鬼の言う通り、
俺は精神力には自信があった。
お前は鬼に向かって右手を差しだした。
これでいいか?
すると鬼の姿はみるみるぼやけ、
俺の右手に吸い込まれていった。
俺の右手の甲には六芒星が浮かびあがっていた。
「俺が必要な時はいつでも呼べ。」
鬼よお前の名は?
「ない。好きにつけよ。」
桜の鬼か?まんまやな。
牙。桜牙。オーガ。
北欧神話の鬼か。こいつはイケてる。
そうお前はこれから桜牙だ。
「承知した。」
こうして俺と桜牙は出会った。
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