3人が本棚に入れています
本棚に追加
奴の気配は人通りを離れていく。
誘っているのか?
「気をつけろ。」
鬼でも人の心配するか。
「ああ。まだ死なれちゃあ、俺が困る。」
不意に頭上に殺気を感じた。
俺は無意識に前方に身体をなげだす。
一瞬前まで俺の身体があった空間を
巨大な爪がないでいった。
俺はそいつを見た。
鬼だ。
他に表現しようがない。
そいつは俺に向かって立て続けに斬撃を
繰り出してくる。
ちょっと待て。
なんとかならんのか。
俺はかろうじて躱しながら、桜牙に呼びかけた。
「イメージしろ。」
イメージだと?
とにかく奴の攻撃を受け止めるには、
刀だ。
俺は意識を集中し、刀で奴の攻撃を受け止める姿をイメージした。
俺の右手が熱くなり紋章が輝いた。
キイン。
甲高い音を残して、奴の爪が切れ飛んだ。
俺は右手に見たこともない日本刀を
握っていた。
軽い。しかも凄まじい切れ味。
「掴んだようだな。トドメを刺せ。」
桜牙が冷たく言う。
おいおい、マジか?
「こいつらは下級の邪鬼だ。
話せる程の知性も残っちゃいない。」
しかし俺は、執拗な邪鬼の斬撃をいなしながらまだ躊躇っていた。
そりゃあそうだろう?
俺も鬼の仲間入りしたのかもしれんが、
気持ちは変わっちゃいない。
人はそう簡単に殺しなんぞせんものだ
「次の犠牲者は助かるとは限らんぞ。」
俺の脳裏にさっきの子供の怯えた顔が蘇った。瑞稀ぐらいの子供。
俺の一撃は邪鬼を袈裟斬りに斬りさげて
いた。
「初めての実戦にしては上出来だ。」
倒れて動かなくなった邪鬼は、
みるみる姿を変えていき。
若い男の姿になった。
おい。人間じゃねーか。
俺は自分のした事に呆然となった。
「鬼は宿主に憑かんと存在出来んからな。
どの道こうなったら助からん。」
俺の目の前で男の死体はみるみる崩れて
いった。
やがてチリになって春風にかき消されて
いった。
だが俺の中からはなかなか消えなかった
最初のコメントを投稿しよう!