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俺が圭を拾ったのは、十一月の雨の日だった
「あ~………寒い…」
近くのスーパーで買い物をして、素早く車に乗り込む
十一月の容赦ない寒風と、それに嫌がらせのように便乗する雨が憎たらしくて堪らない
俺は服についた滴を払いながら、小さく舌打ちをした
「ったく……何でわざわざ寒い時期に、雨なんか降らすかねぇ?」
傘を持っていない訳じゃない
ただ車を出入り口の近くに止めてある為、そんな近距離で傘を差すのが面倒だっただけ
ブツブツと文句を言いながら、俺は車のエンジンを掛ける
「さてと…暖かいマイハウスに戻るか」
そう呟いて、車を走らせ始めた
流れる景色に映るのは、いつも見慣れた街並み
ただ今日は雨のせいか、極端に人通りが少ない
そしてこの通りには、作られてすぐにバスのルート変更があって、使われていない新しいバス停があった
そんなものがある事自体が珍しい事だ
だが現に、俺の毎日の帰宅ルートにはそれがある
それを見て帰るのが、毎日の日課になっている位だ
「…………あれ?」
しかし、今日のバス停は少し可笑しかった
「今……人影見えたよな」
そこには不自然な人影が見えた
屋根もないベンチだけのバス停に、傘も差さず、十一月には余りにも不釣り合いな位の薄着をしている
そんな人影が
俺は一瞬見間違えかと思ったが、気になったので車をバス停へと引き返した
「やっぱり…見間違えじゃなかった」
バス停には、濡れ鼠の少年がいた
白の薄いワイシャツに、黒のパンツとベルト、傘も差さずに濡れている
これを“濡れ鼠”と例えずして、一体何としよう
俺はその少年に、車に積んであった予備の傘を差し掛けた
「……キミ、大丈夫か?」
*
ほんまに意味が分からへん
何なんや?
何で俺はこないな所におるんや
社長は「すぐ戻るさかい」って言うとった
せやかて、戻ってくるような気配ははっきり言うて…あらへん
……捨てられたな
俺はバス停で一人、溜め息をつく
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