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今日は朝から霧雨が降る。桜の花が散ってしまった今では春雨とは言うまい。
魔法の森の入口に静かにたたずむ香霖堂の中で、俺は本を片手にぼんやりと外を眺めていた。
「今日はよく振りますね、霖之助さん。また屋根裏に梅雨の妖精でも住みついたんでしょうか?」
俺は窓から視線を外すことなく言葉を投げかける
「どうかな、ようやく霧雨の剣が僕のことを認めたのかもしれないよ“雨音”《アマネ》くん」
カウンターの安楽椅子に腰かける森近霖之助は同じく手元の本から視線を外すことなく答えた。
言い忘れていたが、“雨音”とは俺の名前である。
もちろん本名ではない
しかし、本名が思い出せない以上、この名前は本名と変わらないと思う。
香霖堂に流れついてから霖之助さんに名付けてもらったわけで、割りと気に入っている。
だが、実は俺には名字がない。
何故かと言えば、自称名前には五月蝿い店主曰く
『名字とは一族の繋がりを表す大切な物だ。だから僕が勝手に付けるわけにはいかない』
というわけだ
まぁないと結構不便なので便宜上、俺は森近と名乗っている
――森近雨音
もちろん森近姓の本人に許可はとってない
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