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欄干に肘をつき川の流れに目を落としている。
物思いに耽っているかのような重い表情から読み取れるのは、苦しみか。悲しみか。
薄暗い空気を纏い、見る限り景気のいい顔でないことは明らかだった。
どうやら彼女はそこから動く気はないのか、すれ違う人に振り返ることもせず、ただ橋の下に流れる川を見下ろしているだけ。
外界との接触を一切断っているかのようにも見えた。
しかし、どんな表情をしていても彼女は絵になった。
それが証拠にすれ違っていく人は必ずと言っていいほど、彼女を見ては同じように振り返る。
主に男子。
女性は羨望と嫉妬を。
男性は憧れと願望を。
様々な視線を浴びていることすら気にしている様子もない彼女。
気づいていないだけかもしれない。
それを抜きにしてもこの光景は珍しくもないのだ。
彼女も気にしていないというよりは、慣れていると言った方が正しいだろう。
普通の人とは違う雰囲気をかね揃えた彼女はそれだけ魅力的であり、人を引き付ける容姿の持ち主なのだ。
俺もしばらく見入っていたが、橋を渡らなければ学校に行けない。
すれ違わなければいけないので、自転車から降り足を進めた。
「よ。朝からなに耽ってんだよ」
「あ……。淳也君。おはよう」
俺の呼び掛けに少し遅れて反応する。
暗い影から一変。木漏れ日のような清々しい笑顔。
彼女は魅神 友李(みかみ ゆり)。
桜色のカーディガンに、シックなフリンジ付きの白いストールが、上品な雰囲気を醸し出していた。
亜麻色のロングスカートが長い足を際立てて見せる。
斜め前髪で顔周りをカールさせた赤茶色の長髪からは、なんともいえない、いい香り。
彼女も同じ学校に通っていてよくつるむ仲間内の1人なので、無視して通り過ぎるわけにもいかず。
勿論、個人的に気になったと言うこともあるのだが。
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