seen.1~日常~

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「なにかあったのか?辛気臭い顔して。財布でも落としたとか。未確認生物発見とか。 ……飛び降りようとしてたなんてのはNGワードな」 「落とさないし、発見もしてないし、はたまた飛び降りようともしてません。ちょっとアンニュイな気分に浸ってただけ。 私だってそんな朝くらいあるの。女性はデリケートなんだから」 「……まぁいいけどな。声かけなかったら遅刻しそうな感じに見えたから。かけてみた」 「それって照れ隠し?」 「……っ、なんでそうなんだよ。違ぇって」 一瞬言葉に詰まる俺を見て、いたずらっぽく笑う友李。 「だったらもう少し早く声かけてくれてもよかったのになぁ。遠目で見てたでしょ?私のこと」 ぎくりとする。 見とれていたなんて間違っても口に出せない。 「妄想に浸ってたとか?――友李の横顔は絵になるなぁ。儚げな表情も素敵だ。一体なにを考えているんだろう。風に乗って鼻をくすぐるこの匂いは……。 友李の匂いだ。友李は本当いい匂いするよなぁ。しばらくずっと君をこの鼻と目で楽しんでいたい――」 軽い小芝居付きで俺の気持ちを代弁する。 「妄想言うな。よくそんな恥ずかしいこと言えるな。羞恥心をどこかに忘れてきたんじゃねぇか?」 「元演劇部ですから。寸劇くらいおちゃのこさいさいなのですよ」 「あっそ」 「で、当たってた?」 「なにが?」 「私の寸劇」 ひとつため息。 「……違う」 「そっか。残念」 その割には軽く肩を竦めただけで、本気で残念そうでないリアクション。 冗談だとしてもそれはそれで寂しいものが…… しかし、心を見抜かれたと思って動揺しそうになった。 全て合致していたわけではないが、なかなかそういう勘には鋭そうだ。 顔に出ないように気をつけよう。 「それより、本当になんでもないんだな?」 「なに?慰めてくれるのかな?」 だからやめてほしい。上目遣いで俺の顔を覗き込むのは。 友李は「冗談冗談、ごめんね」と言って笑う。
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