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からかわれても嫌な気分一つしないのは、友李の人柄ゆえなのかもしれない。
決して自分を偉ぶることなく、分け隔てもない。誰にでも気さくで優しい。
友李はそういうやつなのだ。
「淳也君こそ大丈夫?いつもより――というか、いつも以上に顔色良くないみたいだけど……」
「そうか?……別になんともねぇよ」
俺は普段と変わらない表情だと思っていたから、それは意外だった。
他人にはそう映るのだろうか。
自分ではわからない。
思い返せば今朝の悪夢はいつも以上にリアルだった。
いつもなら夢は事故に遭い、四季の姿が遠くにぼやけて見えるところでぷつりと切れるのだが、今朝のは違う。
その先も見てしまった。
焦げついたオイルの臭い。ぬるっとした鉄の臭い。咥内の違和感。変な味。そして血の水溜まり。
凄くリアルな感覚が、今だ脳裏に染み付いている。
思い出すとまた胸やけのような倦怠感が胃を圧迫くしたので、思考はそこで止めた。
友李がいつも以上に、と言い直したことについては、そんな疑問を感じなかった。
朝、俺の顔色はあまり良くないらしい。
こっちに住み始めてからよく指摘されるようになった。
心配そうに、大丈夫?と、言われないことのほうが少ないくらいだ。
自分の顔にそんな興味もないからか俺自身、顔色の変化にあまり気付くこともない。
しかし、原因くらいはなんとなくわかっていた。
気遣ってくる友李と2人、ようやく歩き出す。
ガラス張りで開放感のある造り。最近では補強工事も入り、ペンキも白に塗り変えられた外観真新しい校舎。
千羽美術専門学校。
俺と友李はここの学生。
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