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席に着きそのまま椅子にもたれかかっていると、1人の男子生徒が近付いて来た。
黒のジャケットの中にインナーとして、所々アルファベットに沿ってスタッズが施された白いTシャツ。
今日に限ってそれがやたら目につく。
学生の頃はバスケ部だったらしく、俺より身長はあるものの、足はそんな長くなかったりする。
だから下はブーツカットのジーンズを履くことで、なんとかカバーしている感じがなんとも間抜け。
「――ったく。日本は他の国に比べれば、まだまだ安寧秩序(あんねいちつじょ)が保たれた場所だと思っていたのによ。
理不尽は至るところに潜んでいるもんだな……」
「は?」
「平穏な生活の中にこそ、常識の欠落というものは蔓延しているってことだよ。宇佐見 淳也君(うさみじゅんや)君」
感傷深げに遠い目をする。
相変わらず朝からおかしなことを言う奴だ。
珍しくテンションが低い理由も、頬にある赤い腫れが原因なのだろうが。
「朝から変な奴な、お前。その頬は?」
「痴漢に間違われた」
思わず吹き出す俺に、そいつは「あの満員電車っていう押し込まれた空間がいけないんだよっ」と悔しそうに机を叩く。
「お前な、自分の下(しも)の処理くらい済ませてこいよ。だから朝から抑えが利かなくなるんだよ。で、誰を選んだんだ?」
「誤解を招くような言い方すんなっ。言っとっけどな、俺は無実だ。潔白なんだ。だからこそ、今ここにいるわけ」
「女子高生か?女子中学生じゃないよな?――まさか、小学生とかっ……」
「その可哀相なものを見る目、止めてくんない?」
「――で、誰なんだよ?」
「老婆だ」
「――――っ」
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