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いつまで寝てるんだよ?行くんだろ?
俺の穴場のスポット。
早く起きないと……
置いて行くからな。
どのくらい経ったか。
遠くから聞こえてくる、けたたましいサイレンの音。赤い光。
臭いがする。
焦げついたオイルの臭い。ぬるっとした鉄の臭い。
変な味がする。
じゃりじゃりとした咥内の違和感。口の中全体に広がる嫌な味。
四季――
それでも。
何度も。
何度も……
呼び続けた。
僅かに漏れた声も雑音にかき消され、かろうじで伸ばした手は力無く地面に落ちる。
向こう側の四季が、凄く遠くに感じた。
手を伸ばせばすぐ掴めそうな、太陽のように。
だけどそれは太陽とは程遠い赤。
赤い水溜まりが広がっていく。四季を中心に広がっていく。
それはあってはならない赤。
悲しい赤。
視界が白く濁って見えなくなってしまうまで、俺は四季の名前を呼び続けた。
海岸沿いの潮風が運んでくるいい香りと共に、その時の風は望んでもいない四季と、伝えようとしていた言葉ごと……
俺の前から連れ去ってしまった。
――早く2人で見たいな。淳君の穴場のスポット――
嬉しそうな四季の笑顔だけが、走馬燈のように頭の中でぐるぐると駆け巡り。
四季が残した背中の微かな温もりは、いずれ俺を闇の中へと、引きずり込んでいったのだった……-――――
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