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――淳ちゃん……――
勢いよくベッドから起き上がる。
気付いたら荒い息を吐きながら、肩を揺らしていた。
暫くして、はっとした表情で辺りを見回す。
確かに、聞こえた気がした。四季が俺の名前を呼ぶ声。
幼かったあの頃を思い出させるような。あどけない声が耳に残る。
俺は一瞬、夢か現実かの区別すらつかずにいたが、それが夢だったと理解するのに、そんな時間はかからなかった。
カーテンの締まり切った薄暗い部屋の中、僅かな隙間から朝を告げる光が漏れ、それに反射して光る棚の上の腕時計。
ガラス板のひび割れた腕時計は、午後3時を指したまま止まっていた。
俺の時間だけが、停まってしまったかのような感覚。
暫く、その腕時計を悲しげに見つめていた。
白で綺麗に統一された2DKの部屋は、たった独りの住人に対して、沈黙を保ったまま。
急な孤独感。胸をえぐられるような不安。喉の奥からせりあがってくる悲痛。悲しみ――――
開放感のある造りは、俺の感情をまるごと置き去りにする。
早く過ぎてほしかった。
この気持ちを早く連れ去ってもらいたかった。
もう嫌だ。
早く……
早く過ぎろ。
こんな苦しみはもう嫌だ。
無くなれ……
無くなってしまえ。
死んでしまう――
死んでしまいたい。
苦しみに顔を歪ませながら耐える。
胸元を自分でも驚くくらい強い力で押さえつけたまま、ひたすら耐える。
過ぎ去るのをただ耐える。耐え続ける。
俺の気持ちとは裏腹に、外では元気よく鶺鴒(セキレイ)が鳴いている。
呼吸が本来のリズムに戻る頃、俺はようやく落ち着きを取り戻すことができた。
カーテンの隙間から覗く光りの方に目を向けると、思わず余りの眩しさに目を伏せた。
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