seen.1~日常~

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深く一度ため息にも似た深呼吸をすると、ゆっくり身体を起こす。 壁時計の針は、ちょうど午前8時を指している。 俺は汗ばんだシャツを脱ぎ捨て、横に畳んで置いておいた新しいシャツに袖を通した。 昨日つけっ放しだったエアコンの電源は、タイマーのせいで止まっている。 側にあったリモコンを手に取り電源をつけた。 立ち上がりふらふらとした足取りで、洗面所へ向う。 汗ばんだシャツを洗濯カゴに入れると、風呂場へ向かい軽くシャワーを浴びようとしたが、時間がないので諦めた。 洗面所に戻り今朝の悪夢を禊ぎはらいでもするかのように、顔を洗う。そして歯ブラシに手を掛け、鏡に映る自分を見た。 少し伸びてきた黒髪に、いつも通りの顔がそこにあった。 あんな夢の後なのに、どこかやつれていたり、顔色が優れないといった感じは特になく見える。 以前より多少痩せてはいるのだろう。しかしあんな悪夢の後でも、いつの間にか普通の顔に戻っている自分に、嫌悪感を抱くのだった。 あの事故はその程度のものか――? 大切な人を亡くし、俺はなんの罪も後悔も悲しみも、感じていないのというのか―――― いや、それは違う。 違うんだ。 でも……--―― --――あれからもうすぐ3年か。 心の中の自分が問い掛けてくる度、毎回それを言い訳にして来た。 自分にそう言い聞かせることでしか、過去からも、犯した罪からも、逃避することができなかったのだ。
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