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Side 辰巳
大切だと、気付いた時には
もう、手は届かなかった。
「辰巳さん、お兄ちゃんここに来てない!?」
慌てて駆け込んで来た冬矢。俺は、妙な胸騒ぎを覚えた。
「来てないが…どうかしたのか?」
「昨日から、帰って来なくて…携帯も、家にあるし…お兄ちゃんの、服、とかもなくなっててっ」
「秋矢が?」
秋矢が、いなくなった?
「母さんも、知らないって……」
「秋矢が行きそうな場所は探したのか?」
「お兄ちゃんの、行きそうな場所…知らないんだ…何も、知らない…」
秋矢の持っていた携帯を手に握りしめながら涙を流す冬矢。
何も、知らない
そう繰り返し呟く。
「…辰巳さんは、お兄ちゃんと付き合ってたのに、何もしらないの?」
「冬矢、」
「お兄ちゃん、辰巳さんのこと大事な人って言ってたのに…辰巳さんは、違ったんだ?」
「違う、俺は…」
「なら、お兄ちゃんが行きそうな場所ぐらい知っててよっ!」
「……」
「お兄ちゃんを、返してよ…っ」
「冬矢、帰るわよ」
「お母さん…」
「大丈夫よ、秋矢は…少し遠くに行っちゃっただけ…すぐに、帰ってくるわ」
「どこに、いるんですか?」
「…それは、言えないわ。少なくとも、あなたには言うつもりも無いのよ?」
秋矢と冬矢の母、景子さんはそれだけを言うと冬矢を連れて帰っていった。
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