美女。

1/7
前へ
/2144ページ
次へ

美女。

桜の花びらが舞っていた。山根卓志は空に目をやった。青空が気持ちよかった。 「あの、すいません」 背後から女性の声が呼んだ。卓志は反射的に振り返った。 卓志の心臓が跳ねる。目の前には目鼻立ちの整った女性が、申し訳なさそうな顔で立っていた。誰が見ても美人、というだろう女だ。 「なっ、何か?」 「実は…財布をなくしてしまって…」 卓志は彼女の申し訳なさそうな顔の理由が分かった。彼女は続ける。 「出来れば少しだけお金を貸していただけないかと」 「えぇ、構いませんけど…どのくらい?」 男のスケベ根性なのか、美女からの頼みは断れないのだ。この後の展開に期待しているのだ。それは例え彼女がいたとしても、だ。 「千円ですけど、大丈夫ですか?」 「あっ、あぁ大丈夫ですよ」卓志は財布から千円札を抜いて彼女に渡した。 「ありがとうございます」彼女は千円札を受け取って続ける。「あの、連絡先…教えてもらっていいですか?」 卓志は彼女に分からないところで拳を強く握った。 「いえいえ…千円なら、返さなくても大丈夫ですよ」 ──勿論、嘘だ。 「そんな、困ります」彼女は上目遣いになった。「必ず返しますから、連絡先をお願いします」 「そこまでいうなら…」
/2144ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21543人が本棚に入れています
本棚に追加