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美女。
桜の花びらが舞っていた。山根卓志は空に目をやった。青空が気持ちよかった。
「あの、すいません」
背後から女性の声が呼んだ。卓志は反射的に振り返った。
卓志の心臓が跳ねる。目の前には目鼻立ちの整った女性が、申し訳なさそうな顔で立っていた。誰が見ても美人、というだろう女だ。
「なっ、何か?」
「実は…財布をなくしてしまって…」
卓志は彼女の申し訳なさそうな顔の理由が分かった。彼女は続ける。
「出来れば少しだけお金を貸していただけないかと」
「えぇ、構いませんけど…どのくらい?」
男のスケベ根性なのか、美女からの頼みは断れないのだ。この後の展開に期待しているのだ。それは例え彼女がいたとしても、だ。
「千円ですけど、大丈夫ですか?」
「あっ、あぁ大丈夫ですよ」卓志は財布から千円札を抜いて彼女に渡した。
「ありがとうございます」彼女は千円札を受け取って続ける。「あの、連絡先…教えてもらっていいですか?」
卓志は彼女に分からないところで拳を強く握った。
「いえいえ…千円なら、返さなくても大丈夫ですよ」
──勿論、嘘だ。
「そんな、困ります」彼女は上目遣いになった。「必ず返しますから、連絡先をお願いします」
「そこまでいうなら…」
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