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薄暗い地下牢の中、一人の男と一人の女が向かい合って座っている。一人は地べたに、一人は古い椅子に。油の臭いが立ち込める空間の中、まさにその臭いの発生源を挟んで向かい合う二人の表情は、いずれも硬い。
「まずは何故、面識もないオレが君を知っているか、だね。」
「出来れば、能力者であることを知っている理由もお願いします」
強い口調での懇願に、思わず苦笑いが浮かぶ。
「分かった。……ミリアは、『管理制度』について知っているな?」
「はい。能力者はその強大すぎる力故、素養があるとわかった段階で、全員王国の管理する台帳に記録される制度ですよね?でも確か、あれは王国軍の極秘事項では……」
「数年前、情報公開についての勅令が出て、かなり面倒な要件をクリアすれば管理台帳を閲覧出来るようになったんだ」
勅令についてミリアは知らなかったが、納得は出来た。確かに、管理台帳を閲覧することが出来れば、個人名はおろか能力の詳細や現住所まで特定が出来る。
「しかし、そんな勅令の発布、あたしは聞いたことがありませんね……」
「王都の住人でも知らない制度だろうな。オレが知ったのも本当に偶然だったから」
それがどんな経緯だったのか、フォルトは言わなかった。ミリアも聞かなかった。
「『管理制度』の有効利用であたしを訪ねてきたことは分かりました。ですが、あたしを訪ねてきた理由が分かりません」
「そりゃ、協力して欲しいからさ」
さも当たり前のように言う彼に、しかしミリアはキョトンとする。
「協力って言っても……『管理制度』を見てあたしを知っているのなら、あたしの能力の詳細を知ってますよね?」
「『逆夢体現(エンスィア)』。文字通り、キミの見た夢とは対極的に位置する現実が体現する、神様もびっくりの能力」
この能力の詳細こそが、ミリアが能力者であることをひた隠しにしてきた理由だった。
「……そうです。あなたが何を期待しているのか分かりませんが、あたしの能力はあたしにもコントロールできない厄介者です。ましてや、あなたの期待に添える確率なんて……」
「ゼロに近い」
それならば、と言葉を続けようとするミリアの言葉を、青年は遮る。
「だが、問題はキミが未来を決定できることではなく、『敵』がそれを脅威に感じている点だ。恐らく、隙あらばキミを消そうとするだろう」
「それは、どういう……?」
その言葉が、最後まで紡がれることはない。
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