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そう言うが早いか、主人は軽やかなフットワークで階段を駆け上がっていった。恐らくは、鍵を借りに行ったのだろう。
「……詰所の職員や警備隊長の許可なくしていいのか?」
「警備隊長はあたしの祖母に頭が上がらないので、後で何とかしてもらいます」
「ずるっ」
そう言いながらも、青年の唇は薄い笑みを浮かべつつ立ち上がる。その段階で初めて気がついたが、彼は手にも足にも拘束具を嵌めていなかった。職員が持つ鍵を外せば、彼はすぐに自由の身となる。
(やっぱり職務怠慢だ……)
この村の警備体制に不安を抱えているミリアをよそに、事態は一気に進行した。二人の予想より早く、鍵を持った主人が現れ、暗がりの中で何度か失敗しながらも鍵を開けた。鉄格子が開けられ、青年がようやく自由な世界への第一歩を踏み出す。大きく伸びをする青年に対し、主人は細長いものを手渡した。どうやら刀のようである。
「念のため、君の武器も返しておくね……何からかは分からないけど、ミリアちゃんを守ってやって欲しい。私は採石場で助けを求めてくるよ」
流石に宿屋の主人ともあると、細かなところにまで目が行き届いているものだ、とミリアが感嘆していると、
「これで、いつでも逃げられる訳ですね」
本気が冗談か分からない口調でそんな答えが返ってきた。一気に張りつめた空間の中、一人だけそんな緊張など最初からなかったかのようにおどけた表情で、
「冗談だよ」
へらへら笑いながら両手を上げる。その頭に、拳骨が一発。
「いたっ!」
「こんなときに冗談はやめて下さい」
むっとするミリアに、青年は暫く頭を抱えていたが、ふと思いついたような表情を浮かべ、次の瞬間つと顔を上げる。
「そう言えば、自己紹介がまだだった。オレはフォルト、フォルト・アルガラルテ。これからどうなるかは分からないけど、とりあえず今はよろしく」
あっけらかんとした表情でフォルトの自己紹介を聞いていたミリアだが、ふと笑顔が覗く。
「はい。よろしくお願いしますね、フォルト」
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