prologue

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 ――生きていく事は、難しい事ではなかった。  難しかった事は、生きていないように振る舞う事。  私の目的は、あの日見つけた一枚のメモにより決まった。否、私に託された運命を、私はあの時ようやく知ったと表現するべきなのだろうか。    目的さえあれば、生きていく事は容易い。心に灯った微かな灯りは、私の砕け散った心の欠片を集め、再構築するのに役立った。  しかし、生きていくという事は足跡を残す事でもある。足跡があるのならば、後を辿ることは容易い。裏を返すのならば、追手の影に怯え続けるという事だ。  残し続ける足跡を可能な限り消しながら、時に追手を撒きながら生き延びることがいかに難しいかを、誰一人として分かってくれないだろう。経験した者でなくては。  怯え、恐れ、奪い、殴り、騙し、逃げ、罵られ、集め、蔑まれ、殴られ、学び、鍛え、そして殺した。目的を遂げるまで、死なない。死ぬわけにはいかない。その一念のみが、私を動かす血となり、肉となった。  そして、ようやく目的を遂げることが出来る歳へと成長した。信頼する仲間も得た。死に物狂いで学も得た。鍛錬の成果も以前とは見違えるほどだと、手前味噌ながら思う。必要な情報も、全て手中にある。後は必要な駒を舞台に上げ、排除していくのみだ。  幕を開ける時が来た。運命の時は近い。信頼すべき仲間達は、私の指示を嬉々として受け入れるであろう。私は暫くの間身をやつし、駒が我等の下に集うのを待つ事にしよう。    パストール歴叙事詩第27巻982頁 愚者の回想より抜粋――
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