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体格的な面から考えれば、自らが不利なことを少女は誰よりもよく理解していた。故に、少女は自らの打撃が相手に命中する範囲においても敢えて攻撃を繰り出さず、相手の初手を待った。
「はっ!」
彼女の「待ち」を知ってか知らずか、男は軽めのパンチを繰り出す。少女が容易く左によけると、今度は左腕が横から彼女を狙う。しかし、それも体を屈めることで回避し、そのまま懐へと飛び込み、掌底を叩き込む。だが、それは男が咄嗟に戻した右腕で弾く。彼の左手が今度は上下に振り下ろされ、少女が両腕でそれを受け止める。一撃が非常に重く、受け止めた腕に僅かな痺れを覚える。追撃が迫る前に右腕を振り払い、バク宙の要領で一回転して間合いを取る。瞬間、丸太のような太い足が、見た目からは想像できない速度で少女の居た場所を蹴り上げた。
少女の背中を冷汗が伝う。油断しているわけでもなく、ましてや相手の実力を過小評価しているわけでもない。敢えて言うのならば、焦っている。
構えにも隙らしい隙がなく、一撃の範囲も威力も上。攻撃から防御への移行も実に見事な手際である。そして、その後の反撃でさえも。
(やっぱり強いなぁ……)
感嘆にも似た思いを浮かべているうちに、相手はじわじわとミリアとの距離を詰めている。大股で一歩踏み込めば、その拳は少女を捉えられるだろう。
(腹を括るしか、ないみたいね)
覚悟を決めた少女を試すように、大男が大きく一歩踏み込んだ。体を大きく捩り、一撃を加えようとする。しかし、
(回し蹴り……!?)
その攻撃は彼女の予想になかった。蹴りは確かにリーチも威力も大きい反面、隙も大きくなる。命中する公算が大きくなければ、少なくともこの段階で使用するべき類の攻撃方法ではない。
(でも、これは……!)
そう、これは彼女にしてみれば思わぬ幸運だった。一撃の射程範囲、威力共に劣っているのならば、相手に攻撃を連発させて強制的に隙を作らせ、一撃を放った後にすぐに間合いを取る。その戦法以外勝算はない。そう判断していたのだ。
千載一遇のチャンスを逃すほど、少女とて格闘経験が浅いわけではない。自らの腰目掛けて飛来する回し蹴りを回避すべく、少女は行動を取り始めた――
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