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「…今、出会ったばかりだ」
ふ、と笑ったのが分かる。
顔がぼんやりして表情は読み取れないが、その言葉は柔らかい。
「我は、人の夢を旅する者。此処は夢と現実の境目」
夢を旅する者?
なんだ、このゲーム的展開は…
いや、ゲームじゃなく、夢だ。だけど…男の着ている衣装も、ゲームに出てきそうな和装だ。
白の着物は胸元が若干広めに開いていて、その男の色気を醸し出しており、下は何かの花の模様が入った薄紫の袴。
その生地は素人の自分から見ても高そうなものだとわかる。
手に持つそれは男の背丈程ある杖で、その頂点には何やら鷲のようなモチーフが飾られている。その下に金色に輝く大中小の輪が三個ついており、男が動作する度に耳障り良くシャン…と音をたてる。
衣装はこんなにはっきり見えるのに、何故だか顔だけボンヤリしているのだ。
「夢と現実の…境目?」
どういう事だ?
男の言葉を反芻してそれはどういう事かと問い掛ける。
男が答える間もなく何処からか、けたたましく携帯の着メロが流れる。
その瞬間、ふわり…と男が後方へ軽々と飛び、
「どなたか御呼びだな…ではまた」
影のように黒くなって、ドアに吸い込まれるように消えた…
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