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「ねぇ、お婆ちゃん」
青い髪をした幼い少年は祭りで開いているお店の一つに入ると人混みに紛れる近所に住む老婆を見掛けた。
「あぁ、なんだぃ?」
少年はまだ11歳の顔を見上げて老婆に訪ねる。
「僕、ずっと気になってたんだけど、このお祭りは何の為のお祭りなの?」
「おやおや、今まで知らなかったのかぇ?」
「うん」
老婆は素直に頷く少年に祭りについて説明した。
それは騒つく人々の声の中でも、やけにはっきりと少年の耳に届いた。
「このお祭りはね、王様の為のお祭りなんだよ」
「王様?」
「そう。この国を作り、私達を見守って下さってるんだよ」
首を傾げる少年。
「でも僕は王様を見たことなんて一度もないよ?」
「それはそうさ。王様は不死の身体を持っていて、もうずっと人とは関わらないでいるからねぇ」
「どうして?」
「王様はね、森を抜けた先にある丘の上に建つお城に住んでいるんだよ。誰にも逢わずに」
「誰にも?ずっとひとりなの?」
「膨大な量の知識と魔法を扱えるから、人とは合わなかったのかもねぇ」
「……」
少年の興味は魔法や知識の量や王様などと言う言葉よりも、『誰にも逢わずに住んでいる』と言う事に興味を惹かれていた。
「ねぇねぇ、なんでお婆ちゃんはそんな事を知ってるの?誰から聞いたの?」
「あぁ、それはね……」
遠い目をしてどこかを見つめた後、老婆は言った。
「私がずっと昔に、彼女達に酷い事をしてしまったからだよ」
哀しげに微笑んだ。
「ふぅん、王様に会った事あるんだ?」
「王様に会いたいかぃ?」
「うん!」
「そうかぃ、私ももう年だからねぇ……時代は変わるものだよ、まったく」
「お婆ちゃん?」
「森を右周りに紅葉の木が一列に生えているから、迷わずに紅葉の木に沿って歩いてごらん。いいかい、絶対に紅葉の木から外れたらいけないよ」
「そうしたら王様に会えるの?」
「あぁ。美しい王様が住んでるよ」
「わかった!行ってくるね」
「気を付けてるんだよ」
「うん。ありがとう、お婆ちゃん!」
「いってらっしゃい、カイト」
僕は騒つく人達を背中に森へと走っていった。
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