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AM 8:09 東京都市内――金座
【スクランブル交差点内】
通勤ラッシュのこの時間、学生やサラリーマンにOL。
沢山の人々が混雑しながら行き交うこの場で。
何歩先かの信号機の下、そこに赤い服を着た女が前屈みに立っていた。
何やってんだろ。
そう思いながらその女性の横を素通りして行こうとしたその瞬間だった。
「っ!痛つ!」
突然身体中に電流のような感覚が駆け抜けていった。
それはいつぞやか一度体験した事がある感覚だった。
―――――これ…!
忘れる訳がない。
ブルブルと震える身体に《動け》と鞭を打ち、横へ視線を向けた。
「―――――っ!」
絶句。
鼻が触れ合う距離にあの女が立ち竦んでいたからだ。
逸らしたくても逸らせない。
女は睨み付けつけるようにして希の顔を覗き込んでいた。
――眼球が存在しない真っ黒な目で。
そして女は口を開けて呻くように喋った。
ただ一言――――【コロス】と。
本能が瞬時に告げた。これはヤバイと。
希は金縛りを力付くで振りほどき逃げ出す。
目的地なんて無い。
只、只この女から……いや、この悪霊から離れる為に。
「くそっ!」
行き交う人々を押し退け、交差点を抜け視界に一番先に入った路地へと駆け込む。
そのまま狭い路地を走り抜ける。
希は走りながら後方を見ると、予想通り女は憑いてくる。
それも四つんばいで。
「ハァッ…!ハァッ……!」
何で!何でだよっ!
今思えばおかしかった。
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