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それから一週間、黒羽の仕事ぶりは素晴らしい物だった。
基本のオーブン掃除も使用前以上に綺麗になっており、ころんが品出しをしている間に、キッチンを綺麗に掃除していた。洗い物は勿論、品出しの度に床に雑巾をかけた。
材料類も、仕事の合間に買い物に出掛け、自費で安い入れ物を買ってきてはそこに纏めていった。それを見たころんは買ってきた入れ物代は払うから、と財布を取り出したが、『試験雇用中ですから結構です。正式採用された際には、売り上げから絞り出して買いますから』と受け取りを断った。
そして更に客の切れ間を見てのホールの床掃除。テーブルは勿論、床の箒掛けは客に見えない間にさっと終わらせる。イートイン時に使うグラスやカップを磨き、棚も掃除する。閉店後は床を雑巾で毎日磨き、席やカウンター、ショーケース、レジまでも綺麗にした。
夜はころんが品評会の時に使う仮眠室の端に段ボールとふわふわタオルで作った寝床に寝泊まりし、朝はころんが用意したタライを裏口の水道に持って行き、水を張って鴉の姿で行水。亜人とは不思議なもので、人間の姿の時は服を脱げるくせに、本来の姿から人間になる時はちゃっかり変身前に着ていた服を着た状態で戻るのだ。身震いして羽繕いし、体を乾かし人間の姿になる。仮眠室に置いてあるドライヤーやブラシで身なりを整え、ころんが開店前に仕込みに来る頃にはすっかりピカピカ執事姿。仕込み中にホールを元に戻し、窓という窓を磨く。そして玄関前掃除。その際に気温を感じ取り、寒ければ席を窓から少し離す。日差しが強ければブラインドを出して調節する。そしてころんが品出しを始めるとまたキッチンの掃除…
一週間の試験雇用をこうして終えると、自ら『会場でお待ちしております』と店を去った。
あの様子だと、飛び級卒業も頷けるし、多分これからもあの仕事ぶりは変わる事は無いだろう。おかげでころんは製菓に集中する事ができ、品数も多く出せる様になった為売り上げも伸びていた。
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