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あるところに善人が一人いた。
善人は明るく元気で困った人を放って置けない性格だった。
そんな善人は山の奥深くに住んでいた。
山の麓の村人達は何度も山を降りてこの村に住まないか、と誘ったという。
しかし善人は頑なにその誘いを断った。
自分は今の生活で十分満足だ。これ以上は何も望まない、と。
善人が村にやって来るようになってから数ヶ月がたった。
村は流行り病に襲われていた。
健康な村人や善人の介抱も虚しく何人も村人が死んでいった。
善人は村人が亡くなる度に自分は無力だと大粒の涙を流した。
そんなことが続いたある日、善人は一つの奇跡を起こした。
流行り病にかかった子どもが息も絶え絶えにもう助からないと誰からも思われていた。
善人は再び涙した。
しかし、その時、子どもと善人は暖かい光に包まれた。
その光は次第に小さくなり遂には消えていった。
最初は誰もが何が起こったのかわからなかった。
しかし、変化は明らかに、そして確実に訪れていた。
なんと、あんなに苦しそうにしていた子どもが静かに寝息をたてているではないか。
その日だけではわからなかったことだが子どもの病は完治してるということがわかったのだ。
それから流行り病が収束するのにそんなに時間はかからなかったという。
善人にはあの日から不思議な力が備わっていた。
その力とは、一人につき一回だけ心の底から願ったことを、なんでもとまではいかないが叶えることができるそうだ。
最初は村人も善人を、村を救ってくれた恩人として感謝していた。
しかし、何時しか村人の感情は感謝から畏怖に変わっていた。
自分達にはない力。
何物かも分からない力。
自分達に理解出来ない力を異端としたのだ。
やがて善人の居場所は村には無くなっていった。
それでも善人は誰かのためになろうとしたのだ。
誰も振り向かぬと知りながら。
そしてある日を境に善人は山から降りて来なくなった。
その後、善人を見たものは誰一人としていなかった。
はじめ、村人は何か災いが降りかかるのではないかという不安に駆られた。
しかし、時が経つにつれて誰の頭からも善人の記憶は消えていったという・・・。
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