第二章 その男、鯨飲につき

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饅頭が消えたと思ったら、その包み紙が祠の扉の向こうからヒラヒラと降ってきた。 明らかに、これは私が今朝お供えした温泉饅頭の包み紙だ。 それが、扉の隙間から落ちて来た。 と、いうことは……? (饅頭泥棒が扉の向こう、つまり、祠の中にいる!?) そう思った瞬間。 バタッとやや乱暴に、ほぼ条件反射で扉を開けてしまった。 風圧でホコリが舞い上がる。祠の中を見渡すと、黴臭くて少しひんやりした空気が漂っている。 特にいつもと変わった所は、見受けられない。 少し躊躇したが、祠の中に入ろうと足を踏み入れる。 「おい」 とっさに聞き覚えの無い声がした方向を振り向いた。 「お前の家に、酒はあるか?」 「――――!?」 そして絶句した。 そこに立っていたのは、上半身裸でボロボロの黒いズボンを身につけた、若い男の人だった。真っ黒な髪がボサボサで、腰の近く伸びている。 逆光で顔がよく見えない。 「あ、あぁぁ……」 「聞いているのか?」 こういうときは、どうすればいいんだっけ。そう、目をそらさずにそっと後ろ歩きで後ずさるんだ。 違う、それはクマへの対処法だ。山の中に半裸で現れた男には、有効かどうか分からない。 「へ、変質者っ!!」 「?」 とりあえず叫ばなくてはと焦って叫ぶと、思いきり声が裏返った。
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