第二章 その男、鯨飲につき

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気が重い。 さっきから酒の話しかしない半裸の遭難者を拾ったのは良いけれど、本当に家に入れても良いんだろうか? ばあちゃんと私しかいないとわかった瞬間、金銭を要求されたりしないとも限らない。 そんな鉛のように重たい気持ちでとぼとぼと歩いていると、すぐに畑が見えてきた。 おばあちゃんがせっせと草むしりしている。 「着きました」 「あの老婆は、お前の祖母か?」 老婆ってアンタ……。 さっきから突っ込み所が多すぎて、何処から突っ込めば良いのか分からない。 というか、突っ込んで良いのかすらまだ分からない。 「はい。一応、ウチの家主です」 「……そうか」 半裸男は、ジロジロとばあちゃんを眺めている。 何だか、すごくシュールな光景だ。 「おい、行くぞ」 そう言うと、つかつかとばあちゃんに向かって歩き始めた。 「あ、はい」 半裸男と私に気づいたばあちゃんが、草むしりの手を止めて立ち上がった。 「おかえり」 ばあちゃんは半裸男に動じることもなく、ごくいつも通り私に声をかけてくれる。 「ただいま」 「篝ちゃん、そちらのお兄ちゃんは……?」 ばあちゃんは子犬みたいなつぶらな瞳で、半裸男を凝視する。 「えっと、この人は」 「酒呑だ」 何と説明すれば良いのか戸惑っていたら、唐突に半裸男が会話に割って入った。 「そう、シュテンさん。食べ物とか分けてほしいそうだから、分けてあげ…」 「食べ物じゃない。酒だ」 少し黙ってて欲しい。話がややこしくなる。 「……そう、お酒を分けて欲しいそうなの。ついでに、服と食べ物も渡そうかと思ってる。」
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