第二章 その男、鯨飲につき

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」馳走になったな」 半裸男はそう言うと、ややぎこちない手付きで皿を片付け始めた。  「あっ、お皿は私が洗いますから」 金属製の瓶の王冠を素手で引き抜く怪力で、皿を割られてもたまらない。 とりあえず、一升瓶をケースに入れて、蔵に移動してもらおう。 私は蔵から瓶を入れるケースを5つ取りに行く。 おばちゃんは、さっきまで半裸男を心配していたのをすっかり忘れて、食後のデザートを用意している。  さっき半裸男が盗み食いしたのと、同じ温泉饅頭だ。 「ばあちゃん……」 「ん?なあに?」 その人はもうそのお饅頭ご飯前に食べてるよ……と言うわけにもいかない。 「確か、冷蔵庫に昨日もらったシュークリームあったよね?生菓子だから、そっちから食べよう?」 「そうだねえ」 我ながら自然な妥協案である。何かと手が掛かる男だ。  シュークリームを並べると、半裸男はそれを掴んでまじまじと眺める。 私とばあちゃんがかぶりつくのを見て、少し躊躇してから一口で丸呑みした。 (口でかっ!?) あれほど飲み食いしたのに、何処にそんな食欲が残っているのか。  「いろいろと、馳走になったな」 「いえいえ、大したものもお出し出来ませんで…」 ばあちゃんがペコリと頭を下げる。それに習って、私も半裸男に向かって一礼した。
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