第二章 その男、鯨飲につき

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半裸男はおもむろに立ち上がると、玄関に向かって歩き出した。 食べたばかりなのに、休憩もせずもう家を出るつもりなのか。 「あの、どこに……」 「畑だ」 てっきり家を出ていくのかと思っていた私は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。 「え?」 「まだ雑草が残っている」 昼食前にしていた草むしりの続きをするつもりらしい。 「まだ食後だし、ゆっくりしていてもらって良いんですけど」 半裸男がピタリと立ち止まる。 「これは昼飯の対価にすぎん。あの婆さんとそう契約したからな」 「対価……?」 ばあちゃんは何故、こんな怪しげな男と軽々しく契約を結ぶのか。 まあ、草むしりと昼食で済む話ならいいけれども。 いつか詐欺に引っ掛からないか、ものすごく心配だ。 「そうだ。お前も酒の対価を考えておけ。願いを一つ、叶えてやる」 「ね、願いって」 「富でも財宝でも、邪魔者の始末でも、好きな事を願うが良い」 ランプの精ならいざ知らず、山中で遭難していた半裸の酒飲みにそんなことを言われても、全く説得力が無い。 草むしりみたいな雑用程度のお願いを聞いてもらおう。とはいえ、急に言われてすぐに思い浮かぶわけでもない。 とりあえず、皿洗いをしながら考えみることにした。 半裸男が裸足のまま畑に行こうとするので、お父さんの靴を履かせてから外に出す。 あの異様な酒の飲みっぷりといい、彼は本当に人間なのか? 人間にしては、色々と非常識……というか、規格外な気がする。
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