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半裸男はおもむろに立ち上がると、玄関に向かって歩き出した。
食べたばかりなのに、休憩もせずもう家を出るつもりなのか。
「あの、どこに……」
「畑だ」
てっきり家を出ていくのかと思っていた私は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。
「え?」
「まだ雑草が残っている」
昼食前にしていた草むしりの続きをするつもりらしい。
「まだ食後だし、ゆっくりしていてもらって良いんですけど」
半裸男がピタリと立ち止まる。
「これは昼飯の対価にすぎん。あの婆さんとそう契約したからな」
「対価……?」
ばあちゃんは何故、こんな怪しげな男と軽々しく契約を結ぶのか。
まあ、草むしりと昼食で済む話ならいいけれども。
いつか詐欺に引っ掛からないか、ものすごく心配だ。
「そうだ。お前も酒の対価を考えておけ。願いを一つ、叶えてやる」
「ね、願いって」
「富でも財宝でも、邪魔者の始末でも、好きな事を願うが良い」
ランプの精ならいざ知らず、山中で遭難していた半裸の酒飲みにそんなことを言われても、全く説得力が無い。
草むしりみたいな雑用程度のお願いを聞いてもらおう。とはいえ、急に言われてすぐに思い浮かぶわけでもない。
とりあえず、皿洗いをしながら考えみることにした。
半裸男が裸足のまま畑に行こうとするので、お父さんの靴を履かせてから外に出す。
あの異様な酒の飲みっぷりといい、彼は本当に人間なのか?
人間にしては、色々と非常識……というか、規格外な気がする。
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