第二章 その男、鯨飲につき

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机の上を片付け、皿を洗う。 私とばあちゃんのどんぶりにはうどんの汁が残っていたが、半裸男のどんぶりは見事に空だった。 酒、酒と言っていた割に、出されたモノは残さず平らげている。 一見、酒の量や外見は非常識に見えるが、案外まともな人間かもしれない。皿を洗いながら窓から畑を覗くと、半裸男はもくもくと草を抜いている。  「ばあちゃん」 「なあに?」 「半裸……シュテンさんって、一体何者なんだろう」 新聞をめくる手を止めて、ばあちゃんは洗い場を振り向いた。 「さあねえ。でも」 「でも?」 「悪い人じゃないから、安心しなさいな」 ばあちゃんは初めから、私が半裸男を警戒している事を見抜いていたのか。 天然なように見えて、人を見る目は確かなばあちゃんがそう言うのだから、大丈夫なのだろう。 「ああ、そういえばね」 「ん?」 「シュテンさんにね、しばらくウチに泊まってもらうことにしたよ」 「……んんっ?!」 危うく皿を割りそうになった。 一体いつ、そんなとこが決まったのだろうか。少なくとも、私は何も聞いていない。 「ちょっ……それはいつ決まったの?」 いつの間にか、ばあちゃんは新聞を読む体制に戻っている。 「ご飯前のねえ、草むしり手伝ってもらう前に頼んだんだよ」 出会ったばかりの、しかも半裸の浮浪者のような男に何故頼むのか。 「ほら、シュテンさんね、一つお願いを聞いてくれるって言ったから」 つい先ほど、私も同じ事を言われたばかりだけれども。 「何で初対面の人にそんなこと頼むの?っていうか、ばあちゃんは何であの人に泊まって欲しいの!?」 ばあちゃんはため息をつくと、机に新聞を置いた。
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