7294人が本棚に入れています
本棚に追加
/772ページ
机の上を片付け、皿を洗う。
私とばあちゃんのどんぶりにはうどんの汁が残っていたが、半裸男のどんぶりは見事に空だった。
酒、酒と言っていた割に、出されたモノは残さず平らげている。
一見、酒の量や外見は非常識に見えるが、案外まともな人間かもしれない。皿を洗いながら窓から畑を覗くと、半裸男はもくもくと草を抜いている。
「ばあちゃん」
「なあに?」
「半裸……シュテンさんって、一体何者なんだろう」
新聞をめくる手を止めて、ばあちゃんは洗い場を振り向いた。
「さあねえ。でも」
「でも?」
「悪い人じゃないから、安心しなさいな」
ばあちゃんは初めから、私が半裸男を警戒している事を見抜いていたのか。
天然なように見えて、人を見る目は確かなばあちゃんがそう言うのだから、大丈夫なのだろう。
「ああ、そういえばね」
「ん?」
「シュテンさんにね、しばらくウチに泊まってもらうことにしたよ」
「……んんっ?!」
危うく皿を割りそうになった。
一体いつ、そんなとこが決まったのだろうか。少なくとも、私は何も聞いていない。
「ちょっ……それはいつ決まったの?」
いつの間にか、ばあちゃんは新聞を読む体制に戻っている。
「ご飯前のねえ、草むしり手伝ってもらう前に頼んだんだよ」
出会ったばかりの、しかも半裸の浮浪者のような男に何故頼むのか。
「ほら、シュテンさんね、一つお願いを聞いてくれるって言ったから」
つい先ほど、私も同じ事を言われたばかりだけれども。
「何で初対面の人にそんなこと頼むの?っていうか、ばあちゃんは何であの人に泊まって欲しいの!?」
ばあちゃんはため息をつくと、机に新聞を置いた。
最初のコメントを投稿しよう!