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「……篝ちゃん、ばあちゃんに何か言うことは無い?」
老眼鏡の隙間から、私をじっと見ている。
そういえば、何か忘れていたような気がしなくもない…。
「えーと、何かあったっけ?」
やれやれ、とばあちゃんは老眼鏡を上げた。
「田代さんから聞いたけど、篝ちゃんの学校の子が何人か、行方不明になったんだってね」
「あ……」
すっかり忘れていた。あのおかしな半裸の男のインパクトが、あまりにも強すぎて。
「だから、学校はみんな早引けなんでしょう」
田代さんは、2年前にこの町の交番に配属された巡査官だ。山でぽつんと住んでいる私とばあちゃんを気遣い、よく山中まで巡回(という名の暇潰し)に来てくれる。
「ごめん、普通に忘れてた……」
「良いよ。シュテンさんのことで頭いっぱいだっただろうしね」
相変わらず、ばあちゃんは鋭い。しかし何故そこまでの洞察力を発揮できるのに、軽々しく見知らぬ人間と変な契約を結ぶのか。
「だから、シュテンさんに泊まってもらうんだよ。用心棒代わりに」
「え、何でそうなるの?」
用心棒代わりに泊まってもらうとして、いざというとき本当にあの男は用心棒になるのか。
そう言うと、ばあちゃんはにこりと笑った。表面上は人の良さそうな、優しげなおばあちゃんの微笑みだ。
しかし、私は裏に老人らしからぬ頭の回転の早さや、さりげなく人をこき使うしたたかさが隠されていることを嫌というほど知っている。
「せっかく本人が申し出てくれたんだから、働いてもらおうかと思って、ね」
「無料より高いものは無い」とは上手く言ったものだ。
ばあちゃんのタダ飯より高くつくモノは無い……ほんの少しだけ、私は半裸男に対して同情を覚えた。
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